本を読み、アプリを触り、上海に行って初めて分かった「中国ITの“本当に”スゴイところ」

中国テック雑記

「中国ITスゴイ!」「シリコンバレー越えてる!」みたいな記事を日々見かけるようになりました。

【第5話】中国アプリ研究所 : 【提言】中国を知ることは、世界の「ネクスト」を知ることだ
中国の電脳スペースには、次世代のユニコーン企業がたくさん生息している。そこでNewsPicksは、日本人がほとんど理解していない中国ユニコーン企業のアプリを丸裸にする「中国アプリ研究所」を設立した。
日本は時代遅れ…中国のスーパーは超便利 配達サービスも充実、売上効率4倍
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自分も仕事の関係でITトレンドを日々追っており、最近は中国の状況を追わなければと中国IT関連本やネット記事を読んだり、中国現地のアプリを触ったり(下記「知財の共産主義」に書かれているように日本でダウンロードできなかったり、出来ても仕様が全然違ったりする)いろいろしてましたが、

中国では、ある企業が「A」というサービスを生み出したら、他の企業はそれを模倣して機能を改善した「A+」を作ります。そして、「A+」を元にした「A++」ができる……この繰り返しがとても速い。(中略)
そして、中国ではその開発プロセスを国外には明かさないようにしている。中国産のアプリを日本からダウンロードしても、通常の画面と異なったり、機能が使えなかったりする。つまり、中国から日本に持って帰ってこようとしても、うまく再現できないのですね。それでいて、国外からも上手に機能を取り入れてくる。
中国の国外には知財を出さないようにしつつ、国内では模倣が仕放題。だから、私は「知財の共産主義」と呼んでいます。

引用:『アフターデジタル』主著者 藤井保文と考えるこれからの10年|オフライン消滅後の世界を占う中国最新事例

昨年に深圳、今年に上海に行って、ようやく何がスゴイのかが感覚的に分かってきました。

今回は、自分が感じた「中国ITの“本当に”スゴイところ」を文章にまとめてみようと思います。

中国のIT、ここがスゴイ

ここからいくつかの観点で「中国IT、ここがスゴイ」を語っていこうと思います。

便利さを追求する「サービスの作りこみ」がスゴイ

アプリを触ったり現地で使ったりして一番感じたのが「サービスの作りこみの凄さ」でした。

中国ITが語られるときは「イノベーション」の文脈、要するに「これまで無かった!」「こんなこと出来るの?」的なサービスや企業が紹介されることが多い気がしますが、その根本にあるのが「ユーザーの利便性を追求する」姿勢です。

このツイートは、日本(グローバル)では「TikTok」という名前の動画投稿アプリの中国版である「抖音」に投稿されていた動画をキャプチャしたもの。陶芸作品を作ってる動画がいいなと思って、他の動画(作品)を見に行ったら、作品を購入できるECまでシームレスに繋がっています。

こちらも同じく「抖音」。料理動画からシームレスに店舗案内に遷移していきます。実際に触ってみて欲しいんですが、本当に気持ちよく動画から購買行動へ遷移していきます。

Twitter

続いて、アリババグループが提供している「高德地图(高徳地図)」。Googleマップのアメリカ版を触ってないので日本語版としか比較してませんが、「電車で載っている位置を表示してくれる」「百貨店調べたら各フロアの店舗情報が整理されてる&各店舗の情報も細かく書かれてる」「乗り換え調べたらそのままバスなどのチケット買える」など、明らかに日本のGoogleマップより便利だなという印象です。

そして、テンセントが提供する「微信」(グローバル版は「WeChat」)。公共料金や納税まで含めた決済、ニュースやゲームなど暇つぶし、公共サービス利用時の個人認証など、これ1つでなんでも出来るといっても過言ではない便利アプリになっています。

10億人以上が利用する中国の国民的アプリ「WeChat」を徹底解説
LINEとは比べ物にならない機能・中国国民の生活との密着度を誇るWeChatについて、中国国内での利用状況など詳しく紹介

続いて、サービスだけではなく、実店舗のオンライン融合について。

こちら、上海のオシャレ百貨店「K11」。エレベーター脇のディスプレイに各店舗の広告が出るだけではなく、QRコードが表示されててそのまま注文できたりします。自分では試せませんでしたが、支払いも同時に完了して店舗に行ったら受取りだけとかになりそう。

一方、実店舗前では動画サイトに投稿している料理動画をそのまま店舗ディスプレイに活用。店に入らなくても気になったらとりあえずアカウントフォローしておこうか、といった使い方ができます。

中国ITトレンドを知るための必読書ともいえる『アフターデジタル』で紹介されたオンラインとオフラインの融合(OMO:Online Merges with Offline)事例の1つですが、本当に滑らかに繋がってる(溶け合ってる)印象です。

アプリ触ったり店舗行ったりしてみた感想としては、イノベーションというよりは、モノづくりの現場で行われているような「プロダクトの作り込み・磨き込み」に近いプロセスを経ている感じがします。

「人力投下の躊躇の無さ」がスゴイ

プロダクトの作り込みの延長ではありますが、「あったら便利」を実現するために、人力を投下することを厭わないのも中国ITの凄さだなと思います。

まずは、バイドゥが提供している「百度翻译(百度翻訳)」。

これ、Google翻訳と同じような自動翻訳はもちろんのこと、いまいちしっくりこないと思ったら「人間による翻訳」をそのまま依頼できます。英中の即日翻訳と、プロ翻訳者による複数言語翻訳。

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下記記事で紹介されてる生鮮スーパー「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」では、「店内の生け簀から注文した魚をその場で調理して食べられる」「店舗で選んだ商品も配送ができて、近隣地域なら30分以内に届く」など、ユーザー体験をとことん考慮したサービス設計になっていますが、これもITに加えて「人力」がモノを言っている設計と言えます。

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上海視察でお世話になった現地駐在の方も「上海でもまだまだ人件費安いですよ」と言っており、この「人力」の活用がユーザーの満足度向上に一躍買っているのは間違いないかなと思います。

ユーザーの利益になることは何でもやる

「サービス作り込み」と重なる部分もありますが、ちょっと違う文脈な気もしたので別項目に。

さきほどに続いて、生鮮スーパー「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」。

確かに生け簀が目立つんですが、個人的に興味深かったのは豚肉に貼られたシール。これ、「第三天(水曜日=視察に行った当日)に作りましたよ」という表記なんですが、生け簀以外にもPB商品を中心に食品の鮮度アピールをどんどんやっているのです。

中国ECの信頼度の低さを払しょくするためにエスクロー決済を初めて導入したアリババ(それが後にアリペイに&中国を世界最大のEC市場に)が、「支払いの信頼性」に続いて「商品の信頼性」をアピールするために新しく始めたのが、この生鮮スーパー「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」。

「倉庫をオープンにして商品を見てもらう」「生け簀を大々的に配置したり、天井部に商品搬送コンベアを配置したりと、来た人が楽しめる場所にしてしまおう」という基本コンセプトもお見事ながら、「加工食品のパッケージにもこだわる」など、ユーザーが不安に思うことを1つ1つ潰していくのが実に素晴らしいと思います。

次は、ナイキが始めたユーザー体験重視の新業態「House of Innovation 001」(ニューヨークに続いて上海が2店舗目)

ここもド派手に配置されているユーザー体験イベントスペースが目立つんですが、それを際立たせているのが「キャッシュレス決済を前提とした商品購入オペレーション」。

「各店員が決済用の機器を持っていて、店舗内で店員に話しかけたらそこで支払いが完了する」になっているんですが、レジに人が滞留しないので「空間全体として楽しい雰囲気」が作れています。

中国ITの凄さは「勝つためには何でもやる」強さ

「サービスの作り込みがスゴイ」「人力投入がスゴイ」「ユーザーの利益に繋がることは何でもやる」の3つの観点で「中国ITの“本当に”スゴイところ」について語ってみました。

中国関連の情報交換の場として「中国トレンド情報局」というコミュニティにオープン当初から所属しているのですが、最近とある事例について議論しているときに中国カルチャーに詳しい方からこんな話がありました。

「中国では勝つために何でもやる意識が無いと生き残れない」

「サービスの作り込み」「ITの力で(現時点で)解決できないものは迷わず人力投入」。中国ITの強さは「勝つためには何でもやる」意識が反映された結果であるように思いました。

やっぱり現地に行ったりアプリ触ったりして初めて分かることも多いので(なんといっても「知財の共産主義!」)、引き続き時間を作って実体験を積み重ねていこうと思います。

p.s. 中国ITについて違う切り口で書いた記事はこちら

中国の「軽いIoT」は、インターネットから現実に飛び出たタケノコである
東大の研究プロジェクトが発行した『中国14億人の社会実装』を読んで感じた内容をまとめてみました