中国の「軽いIoT」は、インターネットから現実に飛び出たタケノコである

中国テック雑記

3月末のnote開設以来、現地から中国テック事情の良質な記事を量産しているインターネットプラス研究所。

体験の出口を争う日本のキャッシュレス、体験の入口から作る中国のキャッシュレス|shao (SAWADA Sho)|note
キャッシュレス化を進めている日本ではクレジットカード、Suica や Edy などの電子マネーにQRコード決済が加わり、レジでの決済手段の多様化が進んでいます。一方、中国ではQRコードを店の入口から活用し、顧客のスマートフォンを用いた購買体験の向上が図られています。 店に入る前からQRコードが渡される ここは深圳...

そのメンバーの伊藤亜聖氏が執筆者の1人として制作された『中国14億人の社会実装』というレポートが公開されました。

報告書『中国14億人の社会実装』を書きました|aseiito|note
中国のデジタル化を議論しようとすると、ついつい監視社会論になる。それはそれでとっても事実だ。同時に、新しい技術が社会に導入されていくメカニズムという面もまたある。その面にも目を向けたい。そんな着想から書かれたのがこの報告書だ。 『中国14億人の社会実装―「軽いIoT」が創るデジタル社会』 インターネットプラス...

今回は、このレポートを読んで感じたことをまとめようと思います。

中国のIoTは「ネットが主で、モノは従」

レポート内では現地で活躍する様々な有識者にインタビューしているのですが、深センで長い間活動するEMS企業(電子デバイスの製造を請け負う会社)ジェネシス・藤岡氏の話の中にこんな発言がありました。

――日中の IoT を俯瞰して、どのような違いがあるのでしょうか。
まったくの別物だ。日本の IoT は「インターネットにつながるモノ」という意味が濃厚だ。つまり、ハードウェアに重点が置かれている。主導権を取っているのも製造業メーカーだ。中国語では「物聯網」と訳されている。「物(モノ)が聯(連携)する網(インターネット)」だ。重点はネットにあり、インターネットが拡張するため、付帯的にモノが必要になるとの文脈だ。
参考:『中国14億人の社会実装』(p.35)

この「ネットが主で、モノは従」という考え方は、先日読んだ『アフターデジタル』にも「OMO(Online Merges with Offline)」というキーワードを用いて全く同じ趣旨のことが書いてあります(該当箇所がさっと見つからなかったので、いったん自分の言葉で。)

>「オフラインで得られるデータを使って何かできないか考える」ではなく、「データをより多く得るためにオフラインで出来ることがないか考える」という発想の転換が大事

日本の家電メーカーが作るスマート家電などは、前者の考え方をしているものが多い気がします。例えば、下記の「湯沸かしポッドの稼働状況で遠くに住んでいる親の状態をモニタリングする」などです。

「金沢」篇 30秒

後者の事例を考える上で、藤岡氏の別の発言が参考になるので再び引用します。

――ニーズの把握が一番重要だというご指摘ですね。
そのとおりだが、通り一遍のマーケットリサーチ、現場でのヒアリングではニーズなどわかるはずはない。実際に運用することが一番の近道だ。

インターネットプラス研究所の澤⽥翔所長から聞いたが、ある中国人ソフトウェアエンジニアが「新しい機能が動くかどうかのテストをする前に、新しい機能が世の中に受け入れられるかのテストのほうが重要だ」と言っていたという。けだし名言だ。

私が最近感銘を受けたのが、深圳市の電気街・華強北にできた全自動フライドポテト販売機だ。揚げたてのフライドポテトを機械が全自動で作って販売するという触れ込みだが、ともかく故障が多いようで、機械のとなりには従業員がつきっきりだった。2〜3 回に 1 回は従業員が蓋をあけて修理しているし、夜は販売停止になる。人間が揚げたほうがよっぽど早い代物だった。結局、その販売機は 2 カ月ほどで撤収してしまった。

この話を聞いて「やはり中国は技術力が低い」「無駄な失敗プロジェクトばかりだ」と思った人は経営センスがない。全自動フライドポテト販売機という、今までにないプロダクトを成功させるには、どの程度集客できるのか、どういうターゲットが興味を持つのか、材料はどの程度必要かなど不明な点が山ほどある。コンサル企業がいくら計算しても絵に描いた餅。最終的には市場に出るまで分からない。故障だらけの試作機のような段階でも、とりあえず運用することによって、貴重なデータが入手できたわけだ。 

参考:『中国14億人の社会実装』(p.35)

要するに、データを取得するために「不具合がある試作機を市場に出し」「それをフォローするために人を配置する」ということをやっているわけです。

「ちゃんと動くモノがあることを前提に」「そこから得られるデータをうまく活用する」発想とは全く別物と言えます。

レポートで語られる「中国の軽いIoT」

スタートアップでは「小さく作って市場テストをする」重要性が周知徹底されていて、例えばLinkedInの創業者は下記のような発言をしています。

MVP(Minimum Viable Product)を世に出したときに、“恥ずかしい気持ち”が湧いてこなければ、そのローンチのタイミングは遅すぎたと考えるべきである。

要するに、「マーケットから必要なデータを得る(多くの場合、ニーズがあるかの調査)ために最低限の機能を持たせたらとにかく早く出すべき」ということです。上記のフライドポテト自販機は、まさにこの発想で社会に実装された例と言えます。

「最低限の機能」に加えて重要だと思ったのは「できる環境のところからやる」こと。冒頭の記事で紹介されたレストランはあくまで一事例であり、試せる店舗でやって市場の評価を受けたりデータを集めたりしているのです。

いまの中国(そして今後の世界)は、「オンラインで構成されたサイバー空間からIoTデバイスがタケノコのように出ている世界」と見るのが良い気がしています。

ここで言う「タケノコ」は、古くはスマホであり、最近はQRコードであり無人店舗でありAI搭載カメラです。

特定のデバイスや技術分野に縛られず、日の目を見る準備ができたものから次から次へとオフラインという地上に飛び出してくるのです。タケノコの芽吹きはよく見れば局所的なのですが、その成長力が半端ないので、そのまばらさが気にならないくらい輝いて見えるのです。

まとめ

実はまだちゃんとレポートの後半部分を読めてないのですが、最近読んだ『アフターデジタル』やレポート前半の藤岡氏のインタビューでだいぶ頭がパンパンになってきたので、一度アウトプットすることにしました。

・中国のテクノロジー社会実装はとにかく「軽い」
・「軽い」の1つめは「市場の声が聞ける最低限の機能が出来たら出す」
・「軽い」の2つめは「実装できるとこからまずは出す」
・軽さを保ってるから「タケノコ」のようににょきにょきと局所的にイノベーティブな仕組みができる
・タケノコの芽生えはまばらではあるが、遠くから見ると社会全体が進んでるように見える

開発の軽さと、実装の軽さ。2つの「軽さ」が中国のIT先進国化を支えている、「中国の今の勢い」を感じさせる良質レポートでした。

p.s. 
レポート後半読んだら、別途記事書きます