「発明者に寄り添う」という、特許の仕事の基本について

テックノマドの仕事術

2018年の年末は、こんな記事を読んでいた。

【佐藤辰男×鳥嶋和彦対談】いかにしてKADOKAWAはいまの姿になったか──ライトノベルの定義は「思春期の少年少女がみずから手に取る、彼らの言葉で書かれたいちばん面白いと思えるもの」【「ゲームの企画書」特別編】
佐藤氏の経歴を振り返りつつ、ライトノベルはどういう経緯で大きなジャンルに成長したのか、ライトノベルの本質とは何か、それを送り出してきたKADOKAWAは出版業界の中でどういう役割を果たしてきたのか、そうした話を伺った。同時に鳥嶋氏の視点を通じて、その背景にあるマンガ・アニメや『ジャンプ』の動向、出版社とテレビ局の関係、...

少年ジャンプの伝説の編集長・鳥嶋和彦さんと、角川書店をサブカル業界の雄・KADOKAWAに育て上げた功労者・佐藤辰男さんという、コンテンツ業界のレジェンド2人の対談記事である。

この記事は「中堅出版社だった角川書店がラノベ(ライトノベル)という新しい書籍のジャンルを開拓し、総合メディア企業としてコンテンツ業界で大きな役割を担っていく過程」を描いている。

そんな記事の最後で語られるのは「編集者とは何か?」という問い。記事の後書きで語られているが、この問いは本対談の聞き手であり、同記事が掲載されている電ファミニコゲーマーの編集長・TAITAI氏が長年感じていたもので、同氏は今回自分にとってのその答えが出たような気がすると述べている。

自分は、TAITAI氏がたどり着いた答えを読みながら「作家と編集者の関係と、発明者と特許担当者の関係」の類似性について想いを馳せ、そして最近の自分を戒めた。(新しい年が始まる、そして特許の仕事が本格稼働する直前にこの記事が読めて本当に良かったと思う)

この気持ちを忘れないうちに、本記事にしっかりまとめて、定期的に読み直したいと思う。

最初は「コンテンツ業界の知見をテック業界に横展開」するために記事を読み始めた

コンテンツ系の仕事からテック系(特許)の仕事に復帰して数か月。自分の中で時間をかけて考えようと思っていたテーマの1つが「コンテンツ業界で得た知見をテック業界に応用する」ことだった。

下記の記事は自分の頭の整理もかねて、最近のコンテンツIP戦略について自分がいま持っている知識をまとめたものだ。こんな感じで自分の頭の中身をまずは言語化して、いつでも実践できる準備をしておきたいと思っている。

テンセント、ミクシィ、DeNA…事例で学ぶ最新コンテンツIP戦略
2017年もスマホゲームの世界売上ランキングで3位になるなど、人気が続くスマホゲーム『モンスターストライク(モンスト)』。Youtubeでのアニメ配信を経て、10月には劇場映画を公開とゲーム以外への展開を積極的に行っています。 ...

知見の横展開の話でいうと、たとえば対談の中で「角川書店がさまざまな会社を吸収統合して、オタク業界の雄・KADOKAWAグループになっていく」というエピソードが出てくる。

佐藤氏:
偶然もあるんですけど、一緒になる相手には、自分たちの強い方面のメディアミックスをさらに強化する、映像とオタク系をやっぱり選んでいるんですよね。映画にしても大映であったり日本ヘラルドであったり。その一方で出版は、いちばん最初はメディアワークスだけど、アスキー、エンターブレインにメディアファクトリーでしょ。これらはどこもライトノベルとマンガをやってる出版社ですよ。

シリコンバレーであれ深センであれ、イノベーションが連続的に生まれる場所にはいろんなリソースが集積しているという話はよく聞くが、

「コンテンツ業界にイノベーションを起こしたKADOKAWAグループにはどんなリソースが集積しているか(例えば、どんな出版社がグループ内にあって、得意ジャンルは何か)」

を調べることで、イノベーションに繋がるリソースについて新しい切り口が出てくるのではと思ったりしている。

もう一段メタな見方をすると、この対談はマンガ業界とラノベ業界の伝説的人物が「ラノベという新しいジャンルを育てるために、マンガという他ジャンルをどう参考にしたか」「マンガ側から見て、ラノベはどのように見えていたのか」について当時の状況を語っているわけで、一流の人たちが他分野をどんな視点で見ているかという学びに溢れている。これは「コンテンツからテックへの横展開」をテーマとしている自分にとって、実に貴重な教材だ。

これはこれで書きたいことがめちゃくちゃあるのだが、今回の記事の本題ではないので近いうちに別途記事にまとめることにする。

対談の最後で語られた「編集者とは何か?」という問い

そしてそろそろ今回の記事の本題、「自分は発明者に寄り添うことができているか」という話に入る。

この対談記事の大まかな構成を説明すると下記の通りである。

・KADOKAWAはいかにしてラノベという新ジャンルを切り開き、総合メディア企業となったのか
・その過程において、佐藤氏やKADOKAWAの編集者はどんな役割を果たしたか
・編集者とはいったい何なのか、編集者に必要な資質とは

今回語りたいテーマに繋がる話は、対談の最後の「編集者に必要な資質」の中で出てくる。少し長くなるが、TAITAI氏の書いた後書きから該当部分を引用する。

 では、そんな佐藤氏の凄さとはいったいなんだったのだろうか?

それは要するに、目利きなどではなく、まして独自の編集理論でもない。
鳥嶋氏も認めた佐藤氏の凄さとは、何よりも作家に「共感する才能」であった。そして、それこそが編集者にもっとも求められる資質であり、最初に必要とされる感覚だったわけだ。

その共感も、作家と編集者という閉じた関係の中で響き合っているだけではどうにもならない。共感は、時代に対する嗅覚──佐藤氏ご本人の言葉を借りれば、「AppleIIでミステリーが楽しめることに驚愕した」だとか、「RPGというものが本当に目新しかった」──という感覚に裏打ちされている必要があり、その感覚がのちのラノベとの出会いなどでも働いているのだ。

言うまでもないが、編集者は、自身が何かを生み出すわけではない。編集者とは、他人の才能を引き出し、その才能を磨く職業だ。なればこそ、まず誰よりも最初に作家(才能)を認め、励まし、そのクリエイティビティに寄り添うことが、編集者には求められる。

編集者のもっとも根源的な部分とは、つまり、目利きと称して才能をふるい落としたり、技術的な指導をしたりすること(もちろん、これらも大事な才覚ではあるが)だけではなく、才能に「共感する」ところからスタートすべきなのだという、考えてみれば当たり前の、至極単純な結論であった。

思えば、前述の鳥嶋氏へのインタビューでも、それを「好奇心」という言葉で表現していた。いわく「才能は奇(稀)なるもの」、「まず奇(稀)なるものを面白がること」が重要だと。これに比べれば、作品そのものの目利きやプロデュースの巧さなどは、些細な能力に過ぎないのかもしれない。

その「奇(稀)なるもの」を目の当たりにしたとき、多くの人はそれをそのままでは理解できない。だからこそ、それを理解し、共感したときに得られる面白さを、広く人々に伝える「編集」という仕事が重要となるのだ。
今回の取材は、そうした編集者のもっとも根源的な部分が、心の底から納得できた&腹落ちしたという意味で、個人的にもとても意義あるものだった。

この内容を読んで、自分は深く反省した。

「目利きだ、プロデュースだ、といったある種テクニカルなスキルは編集者にとって些細な能力に過ぎないのかもしれない」と語られた部分が、最近の自分に向けられた問いかけに見えたからだ。

作家と編集者の関係と、発明者と特許担当者の関係との類似性について

この対談を読むまでそういう見方をしたことがなかったが、特許の仕事と編集の仕事は実に似ている。

編集者の仕事は、「作家の頭から生み出された創作物(世界観であったり、キャラクターであったり)を起点にして、いかに社会に良い影響を与え、その結果を作家や出版社に利益として還元するために縦横無尽に動き回る(創作内容に意見をしたり、プロモーションを考えたり、権利処理をしたり)」ことだと思っている。

かたや特許の仕事は、「発明者の頭から生み出されたアイデアを起点にして、いかに社会に良い影響を与え、その結果を発明者や企業に利益として還元するために縦横無尽に動き回る」こと。こう見てみると、特許の仕事と編集の仕事は本当に良く似ている。

特許の仕事(あるいは編集の仕事)に日々関わっている人が見たら「現場ではそんな広い業務領域はカバーできない」と思われるかもしれない。それは自分も十分承知している。かくいう自分も弁理士のように特許の明細書を自分でバリバリ書くわけではないし、特許侵害の裁判で当事者になったこともない(ちなみに、特許庁を相手取った審決取消訴訟は関わったことがある)。

なので、自分は特許の仕事を細分化した様々な分野(弁理士であったり、情報分析の専門家であったり)のプロフェッショナルと繋がる努力をしてきたし、その人たちと対等な関係になるために、自分しか持っていない専門性を磨こうとしてきた。

コンテンツ業界の知見をテック業界に持ち込む。さらに視点を上げて「他分野や他文化、過去の歴史からの知見を自分の頭の中に構造化してストックして、その時々で関わっている案件に接続する」というスキルを磨くことは、それを意識した上で選んだ道である。

「些細な能力」ばかり目を向けていた自分に反省

発明者のアイデアに耳を傾けて事業の役に立つ形で特許を取得する(アイデア出しのサポートもする)、技術の話だけでなく事業のビジネスモデルも理解して有用な特許取得のサポートをする。また、周辺業務として、技術資料を作ったり教育に関わったりイベントしたりもする。

自分は「特許取得の部分(特許明細書を作成する弁理士の仕事)ではなく、その周辺も含めてサポートができる。というかそちらが得意」ことを自分の強みだと思って、上に書いたようなアイデア出しやビジネスモデルに関するスキルや知識を磨いてきたし勉強してきた。

↓こんな記事を執筆させていただいたりもした。

事業の競争力に直結する「強い特許」の作り方 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター
文献「事業の競争力に直結する「強い特許」の作り方」の詳細情報です。J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンターは研究者、文献、特許などの情報をつなぐことで、異分野の知や意外な発見などを支援する新しいサービスです。またJST内外の良質なコンテンツへ案内いたします。

でも、今回の対談記事を読んで「自分が大切にしたかった、特許の仕事の本質的な部分が見えなくなっていたかも…」と思ったのだ。

発明者の悲しみを救う「特許」という仕組み

コンテンツ業界における作家と同様、時に発明者も孤独な存在である。「このアイデアはおもしろい。絶対に社会を変える」と本人が思ったものでも、所属組織の判断で自社のサービスに実装されないこともあれば、実装されてもサービス自体が競合企業に敗れて表舞台から去ることもある。

そこで「自分で起業をしてでも!」と動き出せる人もいるが、万人がそうではないと思っている。自分も含めて全ての人が強いわけではない。体調を崩すときもあれば、周りの状況がそれを許さないときもある。

発明者個人ではなく、サービスを提供する企業の単位でも同じ。自社のサービスで社会を良くしようと思っても、いろんな事情で事業継続が難しいこともある。

自分が特許の仕事に魅力を感じているのは、特許の仕組みがこういった「悲しみ」を救える可能性があるからだ。

昨今は「考えた人ではなく実現した人が偉い! 最初にやった人が正義だ!」という風潮があるが、自分はこの空気に疲れている。

自分は「考えたことを実行できなかった人ももっと尊重される社会であってほしい」と常々思っていて、特許は社会をその方向に少なからずシフトさせる可能性がある「人類の知恵」の1つだと思っている。

僕は自分自身がアイデア倒れで終わることが多い人間だと自覚しているので、特許がもたらす社会の変化に希望を抱いているし、それに救われる多くの人がいると思っている。

発明者に寄り添いながら特許の仕事をする

いま書いたような想いを実現するためには力がいる。アイデアを考えた人が報われるためには、(特許の文脈でいうなら)そのアイデアを強い権利にする能力が必要だし、それをうまく活用する能力も必要だ。それは間違いない。ただ寄り添うだけではプロフェッショナルとは言えない。

でも、最近は「力を付けたい」(権力志向・権威志向というよりは、頭を使うゲーム的な要素が強いので知的好奇心に飲み込まれがち)が先行し過ぎて、想いに目を向ける機会が無くなっていたなと思ったりした。そこを今一度振り返り、また今後も定期的に目を向けようと。

2019年の抱負というよりは、今後特許の仕事をするにあたっての所信表明ということで、記事にまとめてみました。

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編集長:テクノ大仏(@tech_nomad_) ・アジアのテック事情や世界のITトレンドをまとめた「テックノマド in アジア」 ・中国スマホアプリのトレンド、ミニプログラムの情報をまとめた「ミニプロラボ」 の更新情報のほか、中国・アジアのテック企業に関する他メディアの記事紹介やコメントなどツイートしています。
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