【テンセント】事業戦略と知財情報分析まとめ(注力分野と特許出願傾向など)

バイドゥ分析アイキャッチサムネ アジアのテック企業分析
テンセントが運営してるサービス、MAU10億人越えてるって知ってた?

中国の3大IT企業(BAT)の一角を占めるテンセント(残り2社はアリババ、バイドゥ)。アジアの企業として初めて時価総額5000億ドルを突破(アップルが先日1兆ドルを達成。トヨタ自動車が約2000億ドル)、一時はフェイスブックの時価総額を上回るなど、IT業界の中でも大きな存在感を示しています。

本記事では、2018年8月に発表された2018_2Qの投資家向け説明資料や知財関連情報を見ながら、テンセントの事業戦略や知財分析についてまとめてみました

最終更新日:2018/9/6

サクッと内容を知りたい方はこちら。1分で分かるテンセント

    1. サクッと内容を知りたい方はこちら。1分で分かるテンセント
  1. テンセント(Tencent、騰訊)基本情報
  2. テンセントの事業戦略
    1. 10億以上のユーザーを誇るコミュニケーションサービスを軸に他分野に展開
    2. Weixin・WeChatは10億MAUを突破。QQはスマホシフトしつつ7億MAU。Qzoneも5億MAU
    3. オンラインゲームが売上1/3と収益の柱。テンセント事業構造の内訳
    4. 自社&子会社でゲームアプリランキングの上位をほぼ独占
    5. eスポーツで最も人気の『LoL』もテンセントの子会社が運営
    6. 『モンハン』販売延期で株価が暴落。中国当局がリスク要因か
    7. 今後の成長事業は「オンライン決済」「クラウド」
    8. クラウドサービスもオンライン決済もアリババが強力なライバル
  3. iPhone、Androidのアプリ市場を切り崩す可能性があるmini program
    1. テンセントの稼ぎ頭はオンラインゲームから電子決済・プラットフォームへ
  4. テンセントの知財分析
    1. 特許出願は中国出願・国際出願ともにほぼ横ばい
    2. Eコマース、コンテンツ配信に関する特許出願が増加
    3. テンセント・知財関連ニュース
  5. 参考図書:テンセントをより深く理解するための5冊
    1. 中国新興企業の正体
    2. アジア キーパーソンで読む未来
    3. プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか
    4. 模倣の経営学 実践プログラム版 NEW COMBINATIONS 模倣を創造に変えるイノベーションの王道
    5. 中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立

テンセント(Tencent、騰訊)基本情報

正式名称:騰訊控股有限公司(Tencent Holdings Limited)
本社所在地:中国・広東省深圳
設立:1998年
代表:馬化騰
時価総額:4000億ドル ※2018/9/14
売上:350億ドル(237,760M RMB) ※2017年決算
営業利益:133億ドル(90,302M RMB) ※2017年決算
研究開発費:17.1億ドル ※ PwC Strategy&調査
主要事業:オンラインゲーム、コミュニケーションサービスなど

テンセント業績(売上高と営業利益)

テンセント業績(売上高と営業利益)

テンセントの事業戦略

10億以上のユーザーを誇るコミュニケーションサービスを軸に他分野に展開

テンセント事業戦略の図解

この図はテンセントの事業戦略全体図です。左側の一番大きい歯車「Communications & Social」が事業の核になっています。ここで集めたユーザーを軸に、オンラインゲーム・メディアビジネス・オンライン決済などの他事業を回していくというのが大まかな戦略となります。

日本でいうとLINEがメッセンジャーアプリとして大きなユーザーを抱えて、様々な事業分野に展開しているのを想像してもらえるといいと思います。といっても抱えているユーザー数が桁違いなのですが。

Weixin・WeChatは10億MAUを突破。QQはスマホシフトしつつ7億MAU。Qzoneも5億MAU

テンセント・ソーシャルサービス概要

若者向けのポップなQQと、ホワイトカラー向けの堅実なWeixin・WeChat。2つのサービスで10億を超えるユーザーを獲得しています。

ちなみに他のサービスの数字を出すと、facebookが20億MAU(日本国内で2800万MAU)、LINEは2億MAU(国内で7300万MAU)くらいになります。

QQと微信の違い 中国人にとってアーミーナイフと包丁
Wechatの歴史を時系列でまとめました

オンラインゲームが売上1/3と収益の柱。テンセント事業構造の内訳

テンセント・事業別売り上げ推移

青:ソーシャル、水色:オンラインゲーム、ピンク:広告、オレンジ:その他

上の図は2018年2Qまでの売り上げ推移グラフです。内訳としてはオンラインゲームが34%と収益の柱になっています。

自社&子会社でゲームアプリランキングの上位をほぼ独占

※元データ:Market Brief — 2017 Digital Games & Interactive Media Year in Review

上の表は2017年のスマホゲーム収益ランキングです。日本初のゲームとして『モンスト』『FGO』『ポケモンGO』の3作が入っており、日本のゲームの面目躍如と思いたいところなのですが、

1位:Arena of Valor(王者栄耀) → テンセント
2位:Fantasy Westward Journey(夢幻西遊)
3位:モンスターストライク
4位:クラッシュ・ロワイヤル → スーパーセル(テンセント子会社)
5位:クラッシュ・オブ・クラン → スーパーセル(テンセント子会社)

と、上位5つのうち3つがテンセントが所有するスマホゲームになっています。恐ろしい。

ちなみに、2位の『Fantasy Westward Journey(夢幻西遊)』もネットイースという中国企業が制作しており、スマホゲームは中国企業に上位をほぼ独占されているような状況です。

(余談)
ランキング4,5位のゲームを制作しているスーパーセルですが、テンセントの前に所有していたのはソフトバンクでした。同時期にはアリババ(中国3大IT企業・BATの1つ)・ガンホー(日本企業。人気スマホゲーム『パズドラ』を運営)の株も売却しており、その資金でARMを買収したと言われています。

eスポーツで最も人気の『LoL』もテンセントの子会社が運営


オンラインゲームで最も多いアクティブプレイヤー数(2016年7月に1億MAUを記録)を持つといわれる『League of Legends』。ライアットゲームズ(Riot Games)というアメリカの会社が運営しているのですが、実はこの会社も2011年にテンセントの子会社になっています。つまり、スマホゲームとeスポーツの2つのオンラインゲーム市場で、いずれもトップの作品をテンセントが持っているということです。

さらに、昨年大きな話題となったオンラインのバトルロワイヤルゲーム『PUBG(Player Unknown Back Ground)』の中国での独占運営配信権を取得、人気ゲーム『フォートナイト』を運営するエピックゲームズ(3Dゲームエンジンとして有名なUnreal Engineも開発している)の株式を40%保有するなど、PC・スマホの両面からオンラインゲーム業界での影響力を高めています。

『モンハン』販売延期で株価が暴落。中国当局がリスク要因か

盤石に見えるテンセントのオンラインゲーム事業ですが、先日こんなニュースがありました。

中国が「モンハン」販売差し止め、テンセント配信 一部基準満たさず

また、中国当局のゲーム販売認可機関が2018年上旬から事実上凍結。前述の人気ゲーム『PUBG』『フォートナイト』の中国での配信もストップしており、テンセントのゲーム事業に大きな影響があると言われています。

中国当局のゲーム販売認可機関が承認を凍結―日本のゲームメーカーにも影響

※テンセントのゲーム事業については、下記記事でさらに詳しくまとめています。興味ある方はぜひ合わせてごらんください。

ゲーム売上世界一。テンセント関連のゲームタイトルまとめ(LoL、クラロワ、フォートナイト…)
本記事では、世界No1ゲーム企業(売上1兆円超え)の中国企業・テンセントのゲーム事業について、その概要と世界のざっくりとしたゲーム事情、テンセントが関わっているいまのゲーム業界を代表する5作品について紹介します。

今後の成長事業は「オンライン決済」「クラウド」

テンセント・ビジネスモデル説明
前述の売り上げ構成の具体的な内容が書かれた資料です。「VAS(付加価値サービス)」は有料コンテンツやアイテム課金、「Online Advertising(オンライン広告)」は運営するニュースメディアの広告やソーシャルサービスの広告、そして「Others(その他)」にはオンラインペイメントとクラウドサービスと書かれています。

テンセント売り上げ推移(2Q2018)

青:ソーシャル、水色:オンラインゲーム、ピンク:広告、オレンジ:その他

再掲になりますが、売上推移です。VASとオンライン広告の伸びが落ち着き気味であるのに対して、Othersの伸びが順調であることが分かります。2017年のAnnualReportによると、オンライン決済「WeChat Pay」の成長が順調とのことです。

クラウドサービスもオンライン決済もアリババが強力なライバル

利益率の高さからAmazon、Google、Microsoftなどがこぞって力を入れるクラウドサービス。世界シェアはAWSがトップですが、中国国内ではアリババが47.6%と圧倒的なシェアを持っています。

AWSはやはりAmazonのドル箱――第2四半期決算でさらに輝く
中国パブリッククラウド市場 17年上半期は69.2%成長

オンライン決済も現状は先行で市場参入したアリババが優勢です。同サービスの支払い状況から社会信用スコア「芝麻信用」を算出、その情報は既存の金融業者に加えて、ホテル・レストラン・シェアサービスなど様々な企業が活用するほどになっています。

中国市場でのアリペイ決済額シェアが54.3%に
手数料ゼロでも利益が出るアリペイの秘密

iPhone、Androidのアプリ市場を切り崩す可能性があるmini program

テンセント・mini program説明
iOSのApp Store、AndroidのGoogle Play。いずれも売上の30%を手数料としてプラットフォーム側に支払うという強力なビジネスモデルなのですが、ここを切り崩しうるのが、テンセントしているmini programです。

mini programは簡単に言うと「アプリの中で動くアプリ」で、テンセントの場合だとまずはWeixinの中で使えるアプリということになります。iOS・AndroidというOSがプラットフォームだったのが、そのレイヤーが変わってWeixinというアプリがプラットフォームになるイメージです。

ミニプログラムとは:スマホ業界を激変させる最新トレンド徹底解説
中国のアプリ・WeChatが打ち出した「WeChatミニプログラム(微信小程序)」が世界のスマホ業界を巻き込んだ大きな動きを生み出しています。本記事では「ミニプログラムとは何か」について、様々な目線から徹底解説していきます。

Apple、Googleのプラットフォーム費用を回避しようという動きは、Netflixや人気オンラインゲームなど強固なユーザーを抱えたサービスを中心に出てきています。

Netflix、「iTunes」経由の契約を回避する方法をテスト
グーグルの牙城、崩せるか。人気ゲーム『フォートナイト』が野良アプリで配信する理由とは?

しかし、これからユーザーを獲得しようとするサービスは集客・課金などプラットフォームに頼らざるを得ないので、App Store・Google Playより魅力的な環境(接触するユーザーが多い、手数料が低い、開発がしやすい、など)が整ったら、両者の盤石のプラットフォーム体制が崩れてくる可能性があります。

テンセント・独自経済圏

会社説明資料に書かれた図には、お金の流れをクローズドなものにすると書かれています。

テンセント自体が提供する各種プラットフォーム(ゲーム、動画配信)などに加えて、mini programを通じてより細かなニーズも含めてテンセントの経済圏に取り込むというメッセージのように見えます。

テンセントの稼ぎ頭はオンラインゲームから電子決済・プラットフォームへ

まとめになりますが、

・現状はオンラインゲームが稼ぎ頭
・今後の成長はクラウド、オンライン決済、プラットフォーム戦略

という感じになるかと思います。テンセントを含めてアジアの主要なテック系企業に関しては、定期的に情報収集して内容アップデート&ブラッシュアップしていければと思います。

テンセントの知財分析

この項目では、特許出願の傾向や知財関連ニュース(クロスライセンス、特許売買など)を通じて、テンセントの知財戦略を整理していきます。

特許出願は中国出願・国際出願ともにほぼ横ばい

テンセント・中国出願&国際出願件数の推移(中国出願・国際出願)

テンセントの中国出願と国際出願の推移

テンセントの特許出願件数ですが、2012~2016年の期間は中国出願が2000~2500件、国際出願が500~1000件前後で推移しています。

Eコマース、コンテンツ配信に関する特許出願が増加

テンセント・技術分野別の特許出願件数推移

テンセント・技術分野別の特許出願件数推移

技術分野をいくつかピックアップして出願件数の推移をグラフにしました。

・UIに関する特許出願は減少
UIに関する特許(青)は2012年から基本的に減少傾向です。スマホでの新しいUIデザインがひと段落してきたということでしょうか。スマートウォッチ、スマートグラスなど、新しいデバイスが出ると、そのデバイスに適したデザインの出願が増える傾向があります。

スマホの画面デザインは特許のほかに意匠で保護する方法もあるので、特許から意匠にシフトしている可能性もあります。

画像を含む意匠・画面デザイン意匠の改正のポイント解説

・Eコマースに関する特許出願は増加
Eコマースに関する特許(オレンジ)が急激に増加しています。テンセントはECサイトを全面的に押しているわけではないので、「アリババの牽制」あるいは「オンラインゲームの課金」に関する特許を増やしているのかもしれません。

・コンテンツ配信に関する特許出願は増加
コンテンツ配信に関する特許(赤)は増加傾向です。ゲームだけでなく、アニメや音楽などの配信に力を入れていることが分かります(先日、オンライン音楽事業を独立させるというニュースもありました)。

テンセント・知財関連ニュース

Google、中国Tencentと特許権クロスライセンスに調印(2018/1/20)

Googleが初めて中国のIT企業と特許クロスライセンスを結んだ、と話題になったニュースです。Googleにとっては締め出されていた中国進出への足掛かりに、テンセントは伸び悩んでいるオンライン広告事業などの改善に、という狙いかなと思います。

Supercellが米国でグリーを特許権侵害で訴えていた件(2018/1/26)

スマホゲームの項で紹介したSupercellがグリーを訴えていたというニュースです。記事中ではテンセントからSupercellに訴訟用に関連する特許を譲渡しているという記載もあり、こういう動きを見せられるとグループ会社に取り込まれたほうが得と判断するゲーム会社も増えてくるような気がします。

スクエニ、テンセントと合弁設立 ゲーム共同開発(2018/8/30)

FFなど世界的に人気の高いIPを持つスクエニと提携して世界展開を目指すとのこと、スクエニとしても中国進出にはベストの選択肢ではないでしょうか(テンセントに利益の多くを持っていかれるのかもしれませんが…)

日立とテンセント、IoT分野における戦略的提携に合意(2018/9/10)

スマートシティの構築、製造・物流のスマート化など書かれているので、主にBtoB向けのようです。スマート家電などのBtoCはシャオミが一歩抜けているので、BtoCに強みを持つ日立と組んでそちらで勝負というイメージかと思います。

テンセントの主力事業がオンラインゲーム、SNSなどBtoCコンテンツなので、BtoBハードウェアは事業多角化には良い選択で、さらにIoTだとモバイル決済、テンセント経済圏とどう絡めてくるかが楽しみです。

《知財》知的財産権の業界団体、深センで発足(2018/9/18)

テンセント、ファーウェイなど、深圳に集結する中国の強力なテック企業が知財業界団体を設立。今後のテック系をけん引する分野のパテントプール作って、海外からの収益を強化しようとしてるのかなという印象です。

参考図書:テンセントをより深く理解するための5冊

中国新興企業の正体

今回紹介したテンセントのほかに、中国Eコマースの覇者・アリババ、中国検索サービス最大手・バイドゥ、タクシー配車アプリ・DiDi(滴滴出行)、ドローン最大手・DJIなど、中国の成長著しいテック企業9社について解説した本です。

中国のテック事情を把握するのに最適な1冊です。

アジア キーパーソンで読む未来

政治家、スポーツ選手、映画監督など、様々な分野からこれからのアジアを象徴するような人を紹介しています。アリババのマー会長と並んでテンセントCEOの馬化騰が取り上げられています。

中国の枠を超えて、アジアの今とこれからを考えるのに良い本です。

プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか

テンセントを理解する上で外せないのがプラットフォーム戦略。ここ数年のビジネス書でブームになっている分野なので、関連書籍が多数出ています。

今回はその中から1冊だけ紹介していますが、本屋でいろいろ(図の見やすさ、事例の身近さなど)見比べながら自分が読みやすい1冊を手に取ってもらうのが良いかもしれません。

模倣の経営学 実践プログラム版 NEW COMBINATIONS 模倣を創造に変えるイノベーションの王道

中国=パクリビジネスというイメージがいまだに抜けきらない方に向けてこちらの本をお勧めします。他者を学習するところからいかにオリジナルなものへ昇華していくかのプロセスが解説された書籍。中国の新興テック企業を理解するうえで必読の1冊です。

改定で盛り込まれた事例紹介にテンセントの話があるので、その点でもお勧めです。

中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立

最後に紹介するのは中国のIT企業の成長を理解するうえで欠かせない、中国のインターネット事情の話。テンセント、アリババといった企業がなぜFacebookやAmazonといったグローバル企業と対抗しうるユーザー数を確保できたのか、世界のインターネット(ワールドワイドウェブ)と切り離された中国のインターネットの中ではいったい何が起こっているのかが理解できる1冊です。

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編集長:テクノ大仏(@tech_nomad_) ・アジアのテック事情や世界のITトレンドをまとめた「テックノマド in アジア」 ・中国スマホアプリのトレンド、ミニプログラムの情報をまとめた「ミニプロラボ」 の更新情報のほか、中国・アジアのテック企業に関する他メディアの記事紹介やコメントなどツイートしています。
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