トヨタも実はピボットして自動車事業を始めた、という話

トヨタ特許譲渡契約書 アジアのテック企業分析

先日、SONY創業期の話を書いたが、日本大企業シリーズ第二弾はトヨタの話を。

ソニーはなぜ超一流フランス料理店を自社ビルに作ったのか|テクノ大仏(テックノマド in アジア編集長)|note
『IP Business Journal』という知財系の雑誌で、ソニーの新旧知財部長による対談「知財を経営に組み込むDNA」(聞き手はIPTech特許業務法人副所長兼COOの湯浅竜氏)という記事の編集を担当させていただきました。 「IP Business Journal 2018/2019」巻頭記事「知財を経営...

世界トップの自動車メーカーとして名高いトヨタ自動車。最近ではソフトバンクと組んでMaaS(Mobility as a Service)に本格参入するなど、IT分野にも大きな影響を与えている。

実はトヨタの創業当時の主力ビジネスは自動車ではなく織物機の製造・販売(豊田自動織機)。

「織物機で大きな成功を収めていたトヨタが自動車ビジネスに参入するにあたり、実は織物機に関する特許が大きな役割を果たしていた」という、スタートアップのピボットにも通じる特許の使い方の話を書いていこうと思います。

トヨタ産業技術記念館に行ってきた

年明けの帰省ついでに名古屋にある「トヨタ産業技術記念館」に行ってきた。

トヨタの創業期を支えた「織物機」と現在のトヨタの主力事業「自動車」について、実際の製品や資料(会議の議事録など)が展示されており、特に織物機については、歴代の織物機を展示スタッフの実演付きで確認することができる。

その説明を聞いていると、「人間が操作するとこんなに大変」「自動化したらこんな問題が起こった」「なので、次の製品ではこのように改良した」という説明が繰り返し出てきて、まさに「課題解決」の歴史を辿るような展示であった。

織機技術の発展 | トヨタ産業技術記念館
トヨタ産業技術記念館の施設のご案内:繊維機械館|織機技術の発展

トヨタの自動車の歴史は「自動織物機の特許の譲渡契約」から始まった

織物機の展示に続いては、トヨタの自動車に関する展示が続く。その入り口に飾られていたのは、「それまで見てきた自動織物機に関する特許の譲渡契約書」だった。

展示の説明によると、

豊田自動織機製作所はプラット社(当時世界の織物機のトップにいたイギリスの会社)に対し、日本・中国・アメリカを除くすべての国において豊田式の自動織機を独占的に製作・販売することができる権利を与え、その対価として10万ポンド(当時の貨幣換算で100万円)の特許権譲渡料を受け取る

とある。そして、その資金を元に自動車事業への本格的な参入を開始したのだ。

スタートアップがピボットするときにも使える戦略と思ったり

これ、何がおもしろいかというと、事業分野をピボットするときにも使えるテクニックということ。

ウェブサービス始めたものの方向転換したいというのはよくある話。そこで、それまでやってた事業で積み上げたものを資産化する1つの方法として特許が使えるという1つの事例なのである。

最近はスタートアップのExitとして大手IT起業に売却という手がメジャーになっているが、それを少しライトにした形として「サービスを通じて得た知見を特許の形で権利化」して、それを売却したりライセンスしたりということができる。

特許をお金にする方法は実はけっこう自由度がある

トヨタが行った契約では「トヨタ式の織物機に関する日本・中国・アメリカでの特許権を売却」している。

特許をお金にする方法として、上記以外にいろいろ選択肢があるので例をあげながら解説していく。

最初に大きくキャッシュを確保したい場合には、特許権を売却して一括(あるいは短期で)全額を受け取るのがいい。

逆に継続的にキャッシュを確保したい場合には、特許権は持ったまま他社にライセンスする形で収入を得るのがいい。

トヨタの場合には、その折衷案のような形で既存事業を一部地域(日本・中国・アメリカ)でキープしつつ、他の地域では特許権を売却して(=そこでのビジネス展開は諦めて)、代わりに大きなキャッシュを最初に確保している。

この判断は、その時々のキャッシュフローであったり、新しいビジネスの動向だったり(展示には「思い切っていま自動車製造に当たらねば永久に手を着けることはない」と書かれていた)、いろいろ考慮して総合的に考える必要がある。

また、ウェブサービスの中には「何年か早すぎた」と言われるものが多々ある。ユーザーの行動習慣にもよるし、他サービスも含めたテクノロジー環境にもよる。

そういった場合に、ただ粛々と撤退するのではなく「早すぎたなりに得た知見を特許にしておく」と、数年後に思わぬ形にお金になり、それを元手に再チャレンジしやすくなると思う。

日本のモノづくり企業の過去の取り組みはやはり参考になる

前回のSONY記事でも最後に同じことを書いた気がするが、「日本の大手モノづくり企業が一時期世界を席巻したのには理由があって」「それをいま掘り起こすのはITサービスの発展に繋がる」とやっぱり思っている。

さて、次はどの日本企業を見に行こうか。機械系が続いたので化学系が、たとえば旭化成とかいいのではと思っていたりする。ITと遠ければ遠い事業ほど(ユーザーから見た話。製造現場でITバリバリなのは当然理解している)、その2つを紐づけたときのインパクトが大きくなる。

米中のIT先行事例を調べるときと同じくらい、日本の昔の話を調べるときはけっこうワクワクしているのである。

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編集長:テクノ大仏(@tech_nomad_) ・アジアのテック事情や世界のITトレンドをまとめた「テックノマド in アジア」 ・中国スマホアプリのトレンド、ミニプログラムの情報をまとめた「ミニプロラボ」 の更新情報のほか、中国・アジアのテック企業に関する他メディアの記事紹介やコメントなどツイートしています。
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